峻岳の詩吟うん

 

7言律詩 「酒を酌んで裴迪に与う」と王 維



  酒を酌んで裴迪に与う  王 維


  酒を酌んで君に与う 君自ら寛うせよ
    人情の翻覆 波瀾に似たり

  白首の相知 猶剣を按じ
       朱門の先達 弾冠を笑う

  草色 全く細雨を経て湿い
      花枝 動かんと欲して 春風寒し

 世事浮雲 何ぞ問うに足らん
   如かず 高臥して且つ餐を加えんには
〔詩形〕 七言律詩
〔押韻〕 上平声寒韻(寛・瀾・冠・寒・餐)

【語 釈】
  裴 迪  詩人。王維の友人。不遇であった裴迪の気持ちを慰めようと、
       酒を酌みながら作った即興の詩である。
  寛    気分をゆったりさせる。
  翻 覆  変転して定まらない。
  波 瀾  波。
  白首相知 たがいに白髪頭になるまでつき合ってきた友人。
  按 剣  剣のつかを握る。
  先 達  先に出世した者。
  笑弾冠  冠のほこりをはらって官に推薦してくれるのを待つ者をあざ笑う。
  草色全經 青々とした若草の色が恵みの雨をうけてしっとりと湿っているのに
       (草を小人にたとえる解釈もある。)
  花枝欲動 花の枝が開こうとすると春風が冷たく吹きつける。
       (すぐれた人物が幸運にめぐまれぬ。)友人、裴迪の不遇をいう。
  世事浮雲 世の中のことは浮雲のようにはかない。
  不 如  ~した方がましだ。
  高 臥  世俗を超越して悠々と暮らす。
  加 餐  おいしいものをたっぷり食べる。


【王 維】

  盛唐 (701~761年)
  太原(山西省)の人。字は摩詰
  開元中進士の第一に挙げられた。
  絵事中のとき、安禄山の乱が起こり、捕らえられ禄山に仕えた。
  画にも勝れ南宋画の祖となった。



             (右のカットは、王維・『晩笑堂竹荘畫傳』より)

【詩の心】

君の好きな酒を用意したよ。 
どうか大いに飲んでゆったりした気分になりたまえ。
人情のくるくる変わるのは、ちょうど大波小波が定まりのないのに似ている。
ともに白髪になるまでつき合った仲でも、利害のためには互いに剣を取って争うこともあるし、
先に出世をして朱塗りの門構えの家に住む人間も、推薦を頼みに待つ者を却って嘲笑したりする。
草の色が春の雨にしっとりと潤い、
花の枝のつぼみも開こうとしているのにまだ春の風は冷たく吹く。
世の中のことはすべて浮雲の如くはかないもので問題にするに足りない。
むしろ枕を高くして悠々と眠って英気を養うに越したことはないのだ。

  友人、裴迪の心を慰める作者の心情がよくあらわれている詩である。
ゆったりと、しみじみとした気分でこの詩を吟じてみたい。


  譜 面







   

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